空乞いの手

クトゥルフシナリオ置き場/作者:If

忘れな草の君

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『君が幸せでいるために、忘れて欲しいんだ』

 

《難易度》

 ★

 

《タイプ》

 クローズドシナリオ

 

《人数・時間》

 3~4名・6時間程度(オンライン、タイピング上級者の場合)

 

《推奨》

三大技能、英語

 

《導入》

 昼下がりの繁華街を歩いていると、ある女性とぶつかってしまった。女性はそのまま意識を失い、倒れてしまう。彼女は酷く憔悴しているようで、そして手向けの花束を持っていた――

 

《おすすめPC》

 優しいPC、大切な人がいるPC向け

 

 

【概要】

クリスマスイブの日、佐伯翔は恋人である天海千容にプロポーズした。

千容は快諾し、幸せ一杯だったカップルたちの運命は、その夜暗転する。

ナイフと銃を持った通り魔に千容が狙われ、彼女を庇おうとした翔は命を落としたのだ。

事件以降死んだように日々を送り、ひどくやつれていた千容と探索者は出会う。

倒れた彼女を介抱した夜、床につくと、探索者は不思議な夢を見る。

何もかもが白い部屋で目覚めると、そこには翔がいた。

翔は生気を失った千容をみかね、あの世で出会ったヨグ=ソトースに頼み込み、現実とあの世との境目である、狭間の世界にやってきたのだった。

翔は遺してきた恋人を救うために探索者に助力を乞う。

すなわち、千容から翔の記憶を消すための薬を作るのを手伝ってほしいと。

彼の願いを叶えるか、否か。決めるのは探索者たちである。

 

【Ⅰ:出会い】

◆繁華街

休日の街を歩き、昼食どころを探す探索者たち。

家族連れ、カップル、友人同士――街は賑やかで、楽しげな声と笑顔で溢れている。

と、ある探索者が、すれ違いざまに女性と軽くぶつかってしまう。

女性はそのままふらふらと倒れて動かない。若い。おそらく二十代前半だろう。

顔色が悪い。目が虚ろで意識はほぼないが、何かうわごとのようなものを呟いている。

<目星>

・鞄を発見する。漁ればまず血染めのマフラー。正気度喪失(0/1d2)。

・免許証から名前を知れる。天海千容。

・持っていたらしい花束もある。手向けの花。

<聞き耳>

・誰かの名前を小声でずっと繰り返している。「ショウ」と言っているようだ。

<医学>

・ひどく衰弱している。栄養失調に不眠、過度の疲労か。精神消耗もありそう。

精神分析

・衰弱状態だが正気に戻る。名前を教えてもらえる。

 

◆病院

救急車で病院へ。付き添えば母親と会え、「あんなことがあったあとじゃ……」と聞ける。内容までは教えてくれない。

その後、探索者たちは帰宅し、眠りにつく。

何かしたいことがある人はこのタイミングで。

 

【Ⅱ:狭間の世界】

◆始まりの部屋

探索者たちは何もかもが白い部屋で目覚める。壁も、天井も、床も、眩しいほどに真っ白だ。

今日、行動を共にしていた者たちがそこに勢ぞろいしていた。

夢にしては妙に生々しい。自分が床に足をついて立つ感覚が鮮明だ。

そして、自分たちが着のみ着のままでここにいることに気づくだろう。

動揺しつつも部屋を観察すれば、左右の壁に扉が二個、中央にはテーブルが一つ置いてあるのが分かる。

 

〔机〕

白い机。紙片が3つ、小瓶が一つ。

 

〔紙片1〕

◇机上のメモ

『ようこそ狭間の世界へ』

『清めた小瓶をどうぞ』

 

〔紙片2〕

◇地図

この世界の地図を入手する。

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(始めの部屋は左下、その右横が翔の部屋、上が鏡の間、その上が蔵書室) 

 

〔紙片3〕

◇日記の切れ端

8月5日

久しぶりに翔の部屋に行った。

前に言ったのに、やっぱり写真はセロハンテープで棚のガラスに貼ってあった。

せっかく綺麗に片づけているのに、テープじゃ格好つかないよ。

写真立てでもプレゼントしようかな。かわいいやつ。

 

〔小瓶〕

透き通った小瓶に銀の蓋。細かな細工がされてあり、一目で高級なものだと分かる。

持ち運べそうなサイズである。手に取ると、何かとても清らかな気配を感じた。

 

◆佐伯翔の部屋

右側。木製のごく普通の扉。

<聞き耳>

・人の気配を感じ取れる。

 

扉を開けば、整理整頓の行き届いた部屋が目に入る。

部屋にはベッドが置かれているのを見るに、寝室だろうか。

窓際に机と椅子が置いてあり、他にもテレビや棚がある。

青が好きなのだろうか、カーテンもベッドシーツも青系統で統一されている。

 

〔佐伯翔〕(椅子に腰かけている)

部屋に入ると話しかけてくる。「こんにちは」。

名乗るときは「佐伯」とだけ名乗る。下の名前は聞かれたら教える。若い男性だ。

「目が覚めたらここにいたんだ。自分の部屋があるから、ここで大人しくしていたんだけど。窓の外を見たら真っ暗だし、扉開いてみたら全然知らない場所だし、迂闊に動くのもどうかと思ってさ。夢なら早く覚めろって思っていたところだよ」

「こんなメモが机の上に置いてあったんだ。何かのヒントかもしれない」

「ここは好きに探してもらって構わない」

「俺は少しここで調べたいことがあるんだ。後で合流させてもらえないか?」

※12月24日の記憶を見るまでは、 千容のことは語らない。ヨグに口止めをされており、徹底的に誤魔化す。

 

▼佐伯翔

職業:警察官 年齢:25

STR:14  DEX:12 INT:17  アイデア:85

CON:11  APP:12 POW:16  幸 運:80

SIZ:15  SAN:35 EDU:17  知 識:85

H P:13  M P:16 回避:24 ダメージボーナス:+1d4

――――――――――――――――――――――――――

[技能](職業技能点:340 個人技能点:170)

[職業技能]

言いくるめ 50%(5+45)、心理学 70%(5+65)、法律 30%(5+25)

応急手当 70%(30+40)、回避 74%(24+50)

[職業選択技能]

目星 70%(25+45)、マーシャルアーツ 71%(1+70)

[個人技能]

図書館 60%(25+35)、精神分析 56%(1+55)

キック 65%(25+40)、他の言語(英語) 41%(1+40)

――――――――――――――――――――――――――

 

〔佐伯のメモ〕

<英語>

・『記憶の象徴、形あるものを残らず聖火に焼べよ。成れの果ては聖水に注げ』

 

〔机〕

綺麗に片付いている。一輪挿しの花瓶があり、青い花が挿されている。

忘れな草の花だが、ここでは開示しなくてよい。

<目星>

・机には引き出しがあるが、鍵がついている。開かない。

 

※鍵は佐伯が持っている。自分が死んでいることが露見した後、交渉次第で渡してもらえる。 

〔引き出しの中〕

引き出しの中には日記と写真、指輪。

◇日記の切れ端

5月14日

今日は翔の誕生日だったね。

花なんて、って翔は言うけど、やっぱり部屋に花があると違うものだよ。

5月14日の誕生花、忘れな草なんだよね。

花言葉、知ってる?

「私を忘れないで」って言うんだってね。

心配しなくても翔のことを忘れたりなんかしないよ。

たとえばこの先一緒に居られなくなったとしても、私はずっと翔のことを忘れない。

だって今、幸せだもん。別れることになっても、この幸せが嘘になったりはしないもんね。

 

〔ベッド〕

きちんと整えられている。どうやら部屋の主は几帳面な性格らしい。特に気になるところはない。

 

〔テレビ〕

薄型テレビ。高そう。良い暮らしをしているようだ。

<目星>

・DVDプレーヤーが繋いであるのが分かる。傍にはDVDがいっぱい。あの日見た空のDVDはここにある。

 

〔棚〕

整理が行き届いている。丁寧に分類されている。

<目星>

・ガラス戸にセロハンテープの跡がある。

・写真のない写真立てを発見。パステルカラーの花で縁どられていて、どうやら女性の趣味のようだ。

 

〔窓〕

薄い青色のカーテンが閉まっている。

カーテンを開くことができる。

(描写)

開くとそこは……闇。光の一つもない、純粋な黒が広がっている。

こんな真っ暗闇を、君は見たことがない。

ここは現実の世界ではないことを強く認識する。正気度喪失、1/1d2。

 

◆鏡の部屋

木製の扉。

<目星>

・金で精緻な装飾がされている。とても高価そうだ。厳格な雰囲気を感じる。

<聞き耳>

・何かを引きずるような重い足音と、低いうなり声のようなものが聞こえる。風の音もする。

 

☆初回入室時戦闘

(描写)

扉を開けた、その刹那。

つんと、鼻腔を刺した臭いはなんとも形容しがたい。

肉が腐ったまま、何日も放置されたような――ああ、これを腐敗臭と呼ぶのだろうか?

耳を通るのは、この世の生物のものとは思えぬおどろおどろしいうなり声。

言葉にはなっていない。「それ」が何を訴えようとしているのかは、皆目見当がつかない。

そっと視線を上げた君たちは、「それ」のあまりに凄惨な姿に言葉を失うだろう。

右腕には腐敗した肉を垂らし、左腕には干からびた肉を纏って。

飛び出した眼球は歩くたびに揺れ、裂けた口からは黄ばんだ歯が覗く。

申し訳程度に着込んだ襤褸布を汚す赤黒いものは、かつて血液だったものだろうか。

とっくに死したはずの身体には、意志がある。

君たちを認めた瞬間、それは――君たちがゾンビと呼ぶそれは、ほぼ原形を残さない口でにたりと笑ったように見えた。

さあ、ゾンビをその目で見てしまった探索者たち。1/1d8の正気度喪失だ。

 

中央にはとても大きな鏡がある。その鏡は今、夜中の墓地を映している。

墓地にはゾンビたちが蠢いている。そこから新たにゾンビの蠅を集らせた腕が、こちらへ突き出している?

このままだとゾンビはどんどん増えていきそうだ。

正気度喪失、0/1。

 

鏡の前には譜面台のようなものがある。部屋の奥には扉も一つある模様。

 

▼ゾンビ

STR 16 CON 22 SIZ 15 POW 1 DEX 4 HP 19 回避 8

噛みつき 40% 1d3+1d4

<強化>噛み付き確率アップ、炎召喚で即時消滅

※1ターン経過ごとにゾンビ1匹追加。ただし1ターン目中盤で佐伯登場。譜面台の上の紙を除けるよう指示される。

 

紙は羊皮紙、英語で墓地の名称と思しきものと住所が書かれてあった。

 

〔鏡〕

人間二人分ほどの長さと幅。縁には美しい装飾がされている。

<目星→英語>

・言葉の鏡と刻まれているのが分かる。文字の力を呼び起こす、と書いてある。

 

〔譜面台〕

手の込んだ装飾がされている。譜面台と同じ形、何かものを載せられそう。

<目星>

・譜面台の陰に日記の切れ端が落ちているのに気付く。

◇日記の切れ端

6月17日

今日は翔と映画に行った。

翔は恋愛ものなんて、と気乗りしないみたいだったけど、どうやら気に入ったみたい。

ちょっとだけ目が潤んでいたの、私、知っているよ。

いい映画だったな。

※譜面台に日記の切れ端を載せれば、鏡に映画を見る二人の様子が映る。

映画の名前はどうやら『あの日見た空』だと分かる。

 

◆蔵書室

木製の扉。英語で何か書かれてある。

<英語>

蔵書室と書いてある。

 

紙とインクの匂いが充満している。

大きな本棚が五つあり、同じように大きなテーブルが中央に鎮座している。

傍には座り心地のよさそうなソファが並んでいる。

 

〔テーブル〕

テーブルには豪華な装飾が施された燭台が載せられている。火はついていない。持ち運べそうだ。

羽ペンとインク、羊皮紙もおかれている。羊皮紙には何も書かれていない。

 

〔ソファ〕

ぐしょぐしょにふやけた新聞が載っている。文字は潰れて読めない。辛うじて日付だけは分かる。12月25日。

日記も一緒に置かれている。

◇日記の切れ端

12月27日

どうして?

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

どうして

文字は狂気に満ちて乱れている。

 

※日記は譜面台に置いても狂気が垣間見えるだけで何も効果がない。入り乱れた思考を見て、正気度喪失(0/1)。

※ふやけた新聞は譜面台に載せると12月24日の出来事を再現してくれる。

(描写・譜面台へメモを載せたとき)

クリスマスイヴのきらびやかな街を歩く翔と千容。互いにとても幸せそうだ。雪が電飾の輝きを映しながらちらついている。

「イヴにプロポーズなんて翔も案外ロマンチストだったんだね」

「これでも俺なりに頑張って考えたんだよ」

「うん、ありがとう、素敵だったよ。指輪、一生大事にするね」

千容の薬指にはダイヤモンドの指輪が光っている。おそらく婚約指輪だろう。

指輪に気を取られたか、千容はすれ違いざまに男にぶつかって倒れてしまう。

「大丈夫か千容」

「いっ……」

千容の肩口は赤く染まっている。ぶつかった男はナイフを持っていた。

男は奇声を発しながら、再度千容に切りかかろうとする。翔は男の腕を止めるが――

男は銃を持っていた。

なおも執拗に千容を狙おうとして。

「千容っ!」

銃声。銃声。銃声。

赤い。とても赤い。真っ赤だ。

火薬の匂いとともに鉄錆のような、しかし生々しいにおいをかいだ……そして絶命した人間の身体を見た探索者たち、正気度喪失だ。

1/1d4、どうぞ。

 

鏡の見せる映像が終わると、ふやけた新聞は真新しいものに変わっている。

◇新聞

『聖夜の悲劇なぜ 繁華街で通り魔 男性を射殺』

12月24日午後八時過ぎ、○○県○○市○○区の繁華街で、ナイフと銃を持った男が通行人を襲う事件が発生した。

男はまず女性をナイフで切りつけ、その後再び同じ女性を襲おうとしたが、同〇○区の佐伯翔さん(24)に阻まれる。

そこで男は銃を取り出し、続けざまに3発発砲した。女性を庇おうと佐伯さんはとっさに男を押し倒したが、全弾が命中、死亡した。

女性は佐伯さんの交際相手であり、軽傷。佐伯さんは警察官だった。

女性によると、男に面識はないという。

 

新聞を読んだ探索者は、目の前にいる佐伯翔が既に亡き者であることを知る。

どうして死んだはずの彼が、今、こうして存在しているのだろう?

分からない、分からない。

ゾンビといい、謎の鏡といい、理屈では説明のつかない事態が立て続けに起こっているらしい。

信じがたいことだ。

正気度喪失、1/1d3。

「驚かせてごめん。死んだ人間に出会うなんて、気味の悪いことだと思うが、力を貸してもらえないか」

「千容が……俺があんな死に方をしたから、心配なんだ」

「忘却薬というものを作りたい。千容の俺にまつわる記憶を忘れさせたいんだ。あなたたちに渡したのは、それの作り方だ」

「俺じゃもう千容を幸せにできない。俺を忘れて、千容には、別の人間と幸せになってもらわないといけないんだ」

「だからどうか……よろしくお願いします」

 

〔本棚〕

四隅にあるものと扉の正面に一つ。右上から時計回りで便宜上A、B、C、D、正面とする。

 

〔本棚A〕

<図書館>

・表紙背表紙だけでなく、ページまで全て真っ赤な本を見つける。手にすると少々熱を帯びているのが分かる。

・読んでみてもこの世の文字ではないことが分かるだけだが、とても重要そうなものであることを理解する。

<オカルト>

・読めないが、これが炎を司る書であることを察する。

※これを譜面台に置くことで、燃え盛る聖なる炎を手に入れることができる。

燭台に移すことで持ち運べ、光源にも使用できる上、記憶を灰にすることができる。

 

〔本棚B〕

<図書館>

・花の写真図鑑を発見。佐伯の部屋にあった花は、忘れな草であることが分かる。

・一応この棚に英語の辞書もある。探索者から辞書の要望があったときのみ情報開示。

忘れな草の伝説

ある春の日、ドナウ河畔を騎士ルドルフと美しい乙女ベルタが散策していた。

二人は結婚式を真近に控ており、幸せな毎日を送っていた。

ふと水辺に目をやると、鮮やかな青色の小花が咲いている。

ルドルフは愛するベルタの為に河岸の花を摘もうと、手を伸ばした。

その瞬間、ルドルフは足を滑らせて急流の中に落ちてしまう。 

花を握ったまま彼は必死にもがいたが、重い鎧のせいで泳げない。

最後の力を振り絞って、 ルドルフは花を岸に投げた。

「僕を忘れないで!」

その一言を残し、彼はドナウの底に沈んでしまった。

ドナウの岸辺に咲いていた青い小さな花。

その花こそ、忘れな草だ。

悲恋の記憶を携えて、忘れな草は今日も、騎士の瞳のような青い花を咲かせてる。

 

〔本棚C〕

<図書館>

・表紙背表紙だけでなく、ページまで全て真っ青な本を見つける。手にすると少々湿っているのが分かる。

・読んでみてもこの世の文字ではないことが分かるだけだが、とても重要そうなものであることを理解する。

<オカルト>

・読めないが、この書から水を連想する。

※これを譜面台に置くことで、清く澄んだ聖なる水を手に入れることができる。

小瓶に容れることで持ち運べる上、口にすれば1d3のHP回復にもなる。

 

本棚D〕

<図書館>

・日記の表紙を発見する。筆跡から、どうやらこれまでの書き手と同じ者の持ち物であることを悟る。『20××年、天海千容』とある。

 

〔本棚中央〕

<図書館>

・英語で書かれた古びた本を1冊発見する。禍々しい気配を放っている。

<英語>

◇『ニューイングランドの楽園における魔術的驚異』

魔女や魔法使いやシャーマンなど、植民地時代の邪悪な者たちの冒涜行為のことが書かれている。

ビリングトンの森の中やその近くで起こった出来事の詳述がある。

読めてしまった者、その冒涜的な内容に正気度喪失(1d3/1d6)、持ち帰り研究すればクトゥルフ神話技能+4%。研究し理解するために平均8週間。

何やら書き込みがあったようだが、掠れて読めない。辛うじて「ヨグ=ソトース」というワードを発見できる。

『時間の神、空間の神、我らがヨグソトースよ。時空を超える力を我に与えよ』

 

<目星>部屋全体、気づかなければ<アイデア>などで振らせる。

・Bの本棚付近にこすれたような跡を見つけることができる。動かしたい場合は、SIZ25とSTR対抗ロール。何人でも可。

 

本棚を動かすと、壁のない空間が現れ、薄暗い階段が下へ下へと続いているのが分かる。

辛うじて視界は確保されなくもないが、何とも心細く感じる。

なお、ここには佐伯はついて来ない。

「俺はこの下には行けないんだ。願いを叶えるまでは」

 

◆階段

階段使用時<目星>、宣言のないときは<幸運>で日記の切れ端を入手できる。

火のついた燭台を手にしている場合は自動成功。

◇日記の切れ端

2月14日

3回目のバレンタインデーだ。

ちょっと気合いを入れてチョコケーキを焼いてみた。

15cmだけどホールにしちゃったから食べるのが大変だろうに、翔は感激してくれた。

残るものがいいって翔は言うから、手作りのプレゼントも渡しておいたよ。

危ない職業だから、毎日無事でいてくれますようにって願いながら作ったんだ。

翔、大好き。大好きだよ。ずっと一緒にいてね。

※千容が手作りのお守りを渡すシーンが見える。青い布だ。

 

◆魔術師の私室

その部屋には実験道具がずらりと並んでおり、腐敗臭と何やら薬品の臭いも漂っている。部屋の隅には机と椅子があり、傍には本棚も一つ置かれている。

 

〔机〕

(描写)

どうやら紫のローブを頭から被り、机に突っ伏している人物がいるようだ。

あなたはその近づいて、その紫のローブの人物に話しかけようとした。

が、妙だ。反応がない。どれだけ声をかけようと、紫のローブは微動だにしないのだ。

そこであなたは、紫のローブの肩のあたりと思しき場所に手を触れてみた。

……妙だ。手触りが埃っぽい。さらに軽い。そして冷たい。

ぱきり、と乾いた音が鳴ったその瞬間。ぐらり、とそれは傾いだ。

どさっ。

紫のローブの人物は床に横たわる。

――いや、それは既に人物などではなかった。

空洞になった目が、古びた髑髏が、あなたを見ているような気がする。ローブの中にはもはや骨しか残っていない。

さて、正気度喪失だ。1/1d3+1、どうぞ。

<目星>

・玉虫色の宝珠が埃を被った状態で机に載っているのを発見する。

・机の上には、紫のローブの人物が書いていたと思しき文字が躍っている。

<英語>

・『黒い束縛』という呪文のようだが、詳細は掠れてしまって読み取れない。

・『我らがヨグ=ソトースよ。時間と空間の神よ』という記述がある。

 

〔実験道具〕

人間の臓器、皮膚、血液、髪の毛、爪。あらゆるものが試験管やビーカー、フラスコの中に蓄えられ、薬品に浸されている。

目の高さにあった棚には、フラスコで緑の培養液に浸された眼球があった。

二つの曇った眼は、あなたをじぃっと見つめているように感じる。

おぞましい実験の一端を目にしてしまったあなたは、正気度喪失(1/1d3)。

 

〔本棚〕

研究成果の集積体の模様。恐ろしい実験についての結果、考察が書かれているようだ。正気度喪失、0/1。

<図書館>

・その中で二冊、気になる手記を発見する。共に英語。

<英語>

◇『狭間の世界』

ようやく人の世から出ることが叶った。恐れ多いことだが、一歩、神へ近づくことができただろうか。

ここでなら、あの呪文も成功し、神と接触することが叶うかもしれぬ。

我が魔術の研究が一定の成果を出したことを嬉しく思う。

 

◇『魔術の実験』

一部分破り取られているページを発見する。

生きている者に与えれば、その物にまつわる事柄、人物を忘れ去ることができる。

死した者に振りかければ、少しの間、記憶の力を借りて実体を得ることができる。

ただし、後者の場合は完全な薬を作る必要がある。薬は強い力を持つと、鮮やかな色で輝くだろう。

生者に与える場合も、ある程度の水準に達していないと効果は発揮されない。

 

◆タウィル・アト=ウムルの玉座

(描写)

輝かしい空間が、そこにはあった。

玉虫色をした照明が、そこにも、ここにも、あそこにも、この部屋には溢れている。

幻想的ではあった。が、不気味でもあった。

床にも長細い玉虫色のカーペットが敷かれている。

そのカーペットが続く先は階段になっていて、ああ、これは、玉座のようなものだろうか?

壇上には豪奢な椅子が――これも玉虫色だ――設えられている。

そこには一人の人物が腰掛けていた。

裾の長いローブをまとい、フードを深くかぶっているため、容貌は視認できない。

ただ、この部屋の立ち入りがたい空気を作り上げているのは、この人物であることは知れた。

「よく来たね」

「君たちは彼に頼まれたから呼んだのだよ」

「彼は面白い人物でね。死者の世界を潜り抜け、そうして出会った私の真の姿を見ても心を壊さなかった」

「だから、私は彼の願い事を少しだけ叶えてあげたのだよ」

「彼に協力するか否かは君たちの自由だ」

「一つ、よいことを教えてあげよう。あの鏡は私を信奉する――いや、かつて私を信奉していた者が作ったものだ」

「あの鏡は私の力の一部でね。門の役割も果たす。もっとも、そのためにはある程度力を蓄えねばならないが」

「帰りたいならば、あの鏡を使って帰るといい。彼の望みを果たす、果たさない関係なく帰れるだろう」

※ここで説得を選ぶこともできる。時空を超えて翔を助けたいと願った場合は、RP次第で叶えてやってもよい。タウィルが最も望むのは、退屈をしのぐことだ。

 

【Ⅲ:選択のとき】

①8月5日:写真立て(棚の中)

②6月17日:あの日見た空のDVD(棚の中)

③12月27日:ダイヤモンドの婚約指輪(机の引き出しの中)

④2月14日:手作りのお守り(翔に言えば出してもらえる)

⑤5月14日:忘れな草(机上の花瓶)

 

以上5つのものを聖炎で燃やして灰にし、聖水を掬った小瓶に容れる。

3つ以下…効果なし

4つ…色は灰のままである。

5つ…色は鮮やかな青色に。

 

☆翔の説得

※条件1→完全な忘却薬が完成している。

※条件2→「千容は翔と過ごしていて幸せだった、忘れたくないはずだ」「あなたも本当は忘れられたくないはずだ」「もう一度会ってみるべきだ」このポイントを必ず押さえること。

説得に成功すると、翔は忘却薬を被る。

※翔を時空を超える方向で説得するならば、ふさわしいRPをすること。

 

【Ⅳ:願いの行方】

①揺れる忘れな草(トゥルーエンド)

 達成条件:翔の説得に成功し、譜面台に日記あるいは羊皮紙に翔の部屋の住所を書いて載せた場合

(描写)

翔の部屋で泣き濡れる千容がいる。

「千容」

しばらくぼんやりと彼方を見ていた千容だったが、翔の声を聞いてしばらくすると、弾かれたように振り返る。

「翔……翔!?」

「ああ、俺だ。千容、ごめんな。辛かっただろ」

「翔、翔!」

千容はなおも涙を流しながら、翔に縋りつく。翔は千容の頭を優しく撫でた。

「千容、痩せたな。飯ちゃんと食ってるか?」

「翔、私、私を翔と同じ場所へ連れてって。一緒なら怖くない、だから」

「それはできない」

「どうして」

「俺はお前に生きてほしいんだよ、千容」

「生きて、幸せになれよ。俺の分も。本当は俺がお前を幸せにしてやりたかったけど、もうできないから」

「だから、生きて……勝手な話だけど、お前が幸せになってくれないと、俺も成仏できないっていうかさ」

「う、うぅ……翔、翔……」

「生きて、たまに俺のこと、思い出してくれ。それで十分なんだ。俺、あっちで見守ってるから。お前が幸せになるまで」

「う……ばか……なんで護ったりしたの……なんで死んじゃったの…」

「ごめんな。でも、お前が生きてくれていてよかった」

「う、うあ……うわああああ! あああああああ! 翔! 翔っ!」

翔は、千容が泣き止むまでずっと彼女を抱きしめていた。

最後に「生きる」と頷いた彼女は、やはり、まだやつれているように見える。

しかし、少しだけ、瞳に力が宿ったようだ。

鏡の前に立って、翔は、あなたたちに深く頭を下げた。

「ありがとう」

そうして彼は、にこりと微笑んで。

「あなたたちも、幸せに」

祈りの言葉を残して、鏡の向こうへと消えて行った。

彼女が幸せになれるまで、彼は、鏡の向こうの狭間の世界で、彼女を見守っているのだろう。

彼女の幸せが、彼の幸せ。

そして彼女も、たとえ他の誰かと幸せになったとしても、彼を忘れることはないだろう。

机に残された一輪の青い花が、優しく、揺れた。

SAN報酬→1d8+2d4。

 

②悲しき救い(ノーマルエンド)

 達成条件:翔の説得失敗、もしくは忘却薬が灰色のままで千容に会う

探索者たちは、翔の部屋でベッドに伏せる千容に会いに行く。

薬を飲ませると、千容は額に手を当ててしばらくの間俯き、ふいに「あれ?」とつぶやく。

「ここはどこ? 私、どうしてこんなところにいるの?」

そのまま部屋から出て行こうとするが、千容はふいに泣き始める。

「あれ……おかしいな、何も分からないのに…なんでだろう、なんだか涙が止まらないや……おかしいね……」

千容の涙は止まらない、けれども瞳には生気が戻っていた。

彼女は体力を取り戻すことができるだろう。

けれども、彼女の記憶の中にもはや彼は存在しない。

彼を忘れることで、彼女の心の中には大きな穴が開いてしまった。

その穴に気づくことなく、彼女はこれから、生きていく。

鏡の奥で、彼が寂しそうに……だが、微笑んだのが見えた。

これでよかったのだろうか。あなたたちには分からない。だが、彼女は救われた。それだけは確かだった。 

SAN報酬→1d4+1d2。

 

③彼方の幸福(バッドエンド)

 達成条件:未完成の忘却薬を千容に与える、千容に会うことなく帰る→後日以降

探索者たちは、翔の部屋でベッドに伏せる千容に会いに行く。

薬を飲ませると、千容は額に手を当ててしばらくの間俯き、ふいに「あれ?」とつぶやく。

「私どうしてここに……あれ、翔、翔、どこに、あれ? 私……え? あれ、あれあれあれ、あれ? 翔って誰? ううん、私知ってる、翔……」

薬は不完全で、千容の記憶は混乱してしまった。

あなたたちは錯乱する千容を、どうにか彼女の家まで送り届ける。

後日。彼女が手首を切って自殺したことを知る。

彼女は、彼とあの世で幸せになれたのだろうか。

あなたたちがそれを知ることはできない。

彼も、彼女も、もうあなたと同じ世界には存在しないのだから。

SAN報酬は1d4のみとなります。

 

④狂気の罠(ワーストエンド)

 達成条件:ヨグ=ソトースの機嫌を損ねる、脱出の仕方が分からずに降参する、翔を殺してしまう

 

「君たちには失望したよ」

「でも、そうだな、ここで皆殺しにしてしまうのもつまらないか」

「なら、私の真の姿を見て無事でいられたなら帰してあげよう」

それだけ言うと、ローブの男はすっとフードを落とした。

その瞬間、ふっと辺りが暗くなる。

ぼこ、ぼこ、ぼこ。

玉虫色の泡沫が、湧き上がるようにして現れる。

一つ、二つ、三つ……十、二十、三十……ああ、もう数えられない。

泡沫は、それぞれが合体したり分裂したりの運動を繰り返しながら、徐々に空間を満たしていく。

これは生物なのだろうか。

いや、きっとそれを超越した何かに違いない。

一つ、あなたに近づいてくる泡沫がある。

それは緑、紫、そうやって色を変えて輝きながら、ゆっくりゆっくり忍び寄る。

泡沫にはあなたの顔が写っていた。

ぐるぐる、ぐるぐる、回っている。

歪んでいる、曲がっている、狂っている。

これは本当にあなた自身なのだろうか?

信じたくないほどに、見えた顔は醜くくて、およそ人のそれとは思えない。

耳を突き刺すように響いたのは、もう自分の悲鳴かどうかも分からなかった。

さあ、ヨグ=ソトースの姿をその目で見てしまった探索者たち、正気度消失、1d10/1d100だ。

生還者はバッドエンドの後日~と同じ。SAN報酬はなし。

 

⑤奇跡の幸福(ベストエンド)

 達成条件:ヨグ=ソトースを説得し、鏡を使って過去に戻り、佐伯を救う

「人間ごときの矮小な身で、私を動かすことを望むか。愚かな。だが、愉快だ」
退屈しているヨグ=ソトースを説得し、鏡に時間を超える力を与えてもらう。
新聞を載せても過去は繰り返すだけ、新たな羊皮紙に日時と住所を書き込んで鏡を使い、通り魔を食い止める必要がある。
この際も佐伯の説得は必要。

▼通り魔
STR 11 CON 13 SIZ 12 POW 10 DEX 11 HP 13 回避 22
拳銃 50%(0距離だと倍) 装填数3ダメージ1d10

手段や方法に関してはKP裁量で。姿を目星などで察知させ、探索者に奇襲を許可してやるといい。

死ぬはずの運命が、今、目の前で変わったことを、彼はまだ信じられないようだった。
様々な感情が綯い交ぜになって、揺れに揺れる瞳があなたたちを見ている。
しばらく経って、彼は深々と頭を下げた。
「ありがとう。本当に、ありがとう……どうやって礼を言っていいのか」
横で千容は目を丸くして、翔を見つめている。
「知り合い?」
「ああ、俺の……俺たちの、命の恩人だ、千容」
少し潤んだ目でそう言って、翔はそれ以上言葉を紡げず、黙って千容を抱き締めた。
戸惑いながらも幸せそうに笑う千容と、同じように幸せをかみしめるような翔の表情を見て、あなたたちもまたそんな気分になるのだろう。
聖夜の街は、あるべき幸福な姿を取り戻す。
時間を巻き戻すこと、それが正しかったかどうかは分からない。
それでもあなたたちの手によって、今目の前の二人が幸せを手にできたのは、紛れもない真実だった。

SAN報酬→ベストエンド、2d8+1d4